失敗しないパッシブハウスの真の考え方と事例 10 選!
今回は、自然のエネルギーを有効的に活用するパッシブハウスについての紹介です。
高性能な住宅と言えば、 ZEH や認定低炭素住宅などもありますが、それらとは少し考え方が異なるパッシブハウスの考え方、メリット・デメリットまで深堀りしていきます。
そして、住宅は住みやすいものでなければならず、デザインと共に重要な快適な家を実現するためのポイントがパッシブハウスには詰まっています。
titel(タイテル)の建築家によるパッシブハウスの事例も合わせて紹介しますので、家づくりの参考になること間違いありません。
それでは、冒頭に今回の記事のポイントです。
- パッシブハウスとは、自然のエネルギーをできるだけ有効的に活用し、季節に応じた可変性のある設計で、冷暖房を主とするエネルギー負荷を最小限にする住宅です。
- ZEH との違いは、一次エネルギー消費量や太陽光発電の考え方が異なり、また気密性能の取り扱いでも違いがあります。
- パッシブハウスは、年中快適に過ごすことができ人にも建物にも、そして家計にもやさしいメリットがある。
- デメリットは、高い性能を出すための価格が高いことと、設計士の力量で差が出る点です。
- 自然を活用できる設計はバランスも難しく、単純に断熱性能や気密性能を上げればよいわけではない。
1. パッシブハウスとは
まずパッシブハウスは、元々ドイツの住宅設計から生まれた高い省エネ性能を持つ「パッシブハウス」に由来する住宅のことです。
一言で要約すれば、高い断熱性能や気密性能以外に、季節やその地域に応じた日射の取り込み方などを考えて、冷暖房設備を最低限しか使わなくても快適に過ごせる住宅です。
それでは、パッシブハウスの考え方や目安となる基準からみていきましょう。
1-1. パッシブハウスの考え方
パッシブハウスの基本的な考え方は、設備機器への依存度を減らして、元々の住宅の性能を上げることで省エネを実現させていきます。
特に季節ごとの日射の取り込み方、そして通風といった自然のエネルギーを有効的に活用する考え方がベースにあります。
冬は南面に設けた大きい窓から、たくさん日射を取り込んで室内に熱を取り込みます。
高い断熱性能・気密性能を保持していることから、暖房の負荷は最小限に抑えることができ、家全体が均一な心地よいあたたかさを実現しやすくなります。
一方、夏は大きな窓から入り込む日射を、ブラインドなどを利用して制限します。
そして風がしっかり流れるような設計にすることで、室内にこもる熱を風の力で取り除き、冷房を最小限に抑えていきます。
設計によっては蓄熱暖房を利用する工法や、地熱を利用する工法などもあります。
しかし共通して言えることは、高い性能を持って自然のエネルギーを最大限活用する住宅である、ということです。
1-2. パッシブハウスの基準
実は、パッシブハウスには「正式な」パッシブハウスになるための基準があります。
一般社団法人パッシブハウス・ジャパンへの加盟がまずは前提で、講習を完了した省エネ建築診断士によって設計監理、さらに 3 つの基準をクリアした住宅をパッシブハウスと言います。
- 年間暖房負荷:15 kWh / m2 以下
- 一次エネルギー消費量:家電を含んだ一次エネルギー消費量が 120 kWh / m2 以下
- 気密性能:50 Paの加圧時に漏気回数が 0.6 回以下
ただ、考え方自体は普及してきており、考え方・コンセプトをどこまで取り入れるか、については個々の価値観や地域性も左右してくる要因です。
絶対的な考え方ではなく、あくまで公式の 1 つの基準として捉えてもらえれば良いのではないでしょうか。
1-3. ZEH住宅との違い
昨今、補助金なども出ることから新築を検討する方であれば、目にしたり聞いたことがある ZEH (ゼッチ)住宅との違いをカンタンに解説します。
結論からお伝えすると違いは2つで、「一次エネルギー消費量の考え方」と「気密性能を加味するか否か」です。
ZEH もパッシブハウスも、住宅内で使う機器がどれくらい省エネなのか? を推し測る「一次エネルギー消費量」という計算を行います。
ここで算出される結果で、ZEH 住宅本来の性能で省エネ性を計算するため、家電で使うエネルギーは「含まない」計算をして、さらに太陽光発電を必須としています。
一方、パッシブハウスは家電で使うエネルギー「も含み」、太陽光発電も必須ではありません。
そして 2 点目の気密性能については、 ZEH の場合は問われていませんが、パッシブハウスは気密性を重視します。
どちらが良い・悪いというわけではなく、 それぞれの考え方で省エネの住宅を実現し、いずれも最終的にはパリ協定の CO2 削減率の目標達成をめざしています。
2. パッシブハウスのメリット
それでは、パッシブハウスのメリットを見ていきましょう。
2-1. 年中快適な温熱環境で過ごすことができる
1 つ目は、高い断熱性能や気密性能などによってうまれる「家じゅうどこでも快適な温熱環境」です。
パッシブハウスは一般的な住宅に比べても、レベルの相当高い断熱・気密性能が要求されます。
理由は、少ないエネルギーで効率よく家じゅうを快適にするためです。
家全体が魔法瓶のような断熱・気密性能があることで、夏・冬でも冷暖房が不要、もしくは最小限の運転でカバーできてしまうことが特徴でもあり、メリットでもあります。
昔の家は、冬はお風呂場や洗面脱衣場が寒い、夏は 2 階にいくと暑い、といった建物内での温度差がありました。
パッシブハウスは、建物内の温度差の均一化も考えられており、すごしやすい住宅であると言えます。
2-2. 建物が長寿命な傾向にある
2 つ目は、建物自体も長寿命である傾向が強いことです。
この理由は、高い気密性能によって躯体自体に腐食などを起こすリスクが少ないためです。
気密性能が低いと、壁の中で結露を起こす壁内結露という現象がおきやすく、特に冬季に発生しやすい現象でもあります。
壁の中で結露が起きると、柱や断熱材にカビが発生する要因になり、建物の寿命に影響を及ぼします。
気密性能をしっかり考えられたパッシブハウスは、人だけでなく建物自体にもやさしい設計と言えます。
2-3. 光熱費を抑えて家計にやさしい
最後のメリットは光熱費が抑えられることです。
1 つ目のメリットで解説した通り、冷暖房を中心とするエネルギーを最小限にできる住宅設計がパッシブハウスです。
家で使われるエネルギーで一番多い項目が給湯にかかるエネルギー、つづいて冷暖房設備にかかるエネルギーになります。(参考: 資源エネルギー庁・エネルギー白書 2020 )
この冷暖房にかかるエネルギーをおさえることで、光熱費も自然と抑えることができるため、家計にもやさしいと言えます。
3. パッシブハウスのデメリット
一方で、今度はパッシブハウスのデメリットについても解説をしていきます。
3-1. 建築価格が高い
1 点目は建築価格についてです。
パッシブハウスでは、高い断熱性能や日射を取り入れる窓を大きく高性能にするため、一般的な住宅に比べて建築にかかる価格は高くなります。
気密性能にも気を付けて施工を行うため、施工にかかる費用も比較的高めになるため、イニシャル価格はデメリットとなります。
高性能なパッシブハウスを目指すとなれば、目安となる価格帯は坪単価 90 万円〜と考えていただければ、そこまでのギャップは発生しないでしょう。
しかし単純に坪単価で高い!と判断するのではなく、メリットの 3 点目で解説した「光熱費が安い」ということも考慮しましょう。
住宅ローンでの月々に支払う金額と光熱費を合わせて、最終的に家計から出ていく額で一般的な住宅との比較をしっかり検討することで、「安物買いの銭失い」という失敗を防げます。
3-2. 設計士に求められるレベルが高い(地域の気候や土地形状により)
2 つ目は、設計に求められるレベルおよび計算が非常に高レベルという点です。
日射 1 つとっても、窓を大きくし過ぎると夏の日中に暑く、冬に寒くなりがちです。
しかし単純に窓の性能を上げるだけではなく、陽が入り込む時間帯や角度、日射で生み出される熱の量などを加味して、バランスを考える必要があります。
また性能だけでなく、家としてのデザインや住み心地、そして価格も重要な要素です。
これらが複雑に絡んでいる中から、最適解を見つけ出すには、設計士でもカンタンではありません。
titel(タイテル)でご紹介している建築家は、このような考え方も持ち合わせたうえで、デザインなどにも配慮できる設計士が揃っていますので、ご安心ください。
4. パッシブハウスの設計時に気を付けるポイント
それでは、パッシブハウスの設計のポイントを簡単に紹介していきましょう。
4-1. 日射取得の調整
パッシブハウスの最大の特徴とも言える、南面の大きな開口とブラインドとの併用です。
冬の日中に最大限の日射を取り込めるよう、南が全面窓という住宅設計もあります。
また屋根の庇(ひさし)の長さを調整することで、太陽の角度が高い夏場の日射を遮り、太陽の角度が浅い冬の日射を取り込みやすくする工夫もあります。
季節に応じた日射の活用方法が重要なポイントです。
4-2. 断熱のレベル設定
ZEHのように UA値の基準はありませんが、年間暖房負荷が 15 kWh / m2 以下という基準をクリアすることが目標とされています。
いわゆるパッシブハウスでの断熱性能は、一般的には HEAT20 の G2 〜 G3 レベルが推奨されており、 ZEH に比べても高い断熱性能を求められることが多いです。
また日射を多く取り込む窓の性能も、冬の寒さ・夏の暑さを遮断するため、 3 層ガラスや木製サッシ、樹脂サッシなど高いレベルの窓サッシが使われることが多いです。
UA値とは、家の断熱性能を数値で表現する指標の1つです。
算出される数値は、家の床や壁、天井からどれだけ熱が出ていく(入ってくる)か? の平均値となっています。
数値が低いほど、家の断熱性能が高いと言えますが、基準となる数値は HEAT20 で解説します。
つづいて HEAT20 とは元々、研究者や住宅・建材メーカー・卸問屋団体の有志によって発足した団体「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」の略称です。
そしてこの団体が、目指すべき断熱性能( UA値 )として設定した指標が、G1 ・ G2 ・ G3 という3ランクがあります。
2021年までは、1 つの指標でしたが 2022年 以降は断熱等級として、国が定める指標となっていきます。
なお、パッシブハウスで推奨されるレベルは G2 前後以上の性能です。
平成28年省エネ基準 (断熱等級4) |
ZEH基準 (断熱等級5) |
HEAT20・G1 (断熱等級6) |
HEAT20・G2 (断熱等級7) |
HEAT20・G3 (断熱等級8) |
|
---|---|---|---|---|---|
1地域 | 0.46 | 0.40 | 0.34 | 0.28 | 0.20 |
2地域 | 0.46 | 0.40 | 0.34 | 0.28 | 0.20 |
3地域 | 0.56 | 0.50 | 0.38 | 0.28 | 0.20 |
4地域 | 0.75 | 0.60 | 0.46 | 0.34 | 0.23 |
5地域 | 0.87 | 0.60 | 0.48 | 0.34 | 0.23 |
6地域 | 0.87 | 0.60 | 0.56 | 0.46 | 0.26 |
7地域 | 0.87 | 0.60 | 0.56 | 0.46 | 0.26 |
8地域 | - | - | - | - | - |
※ 出典:HEAT20
4-3. 空調換気設計も念入りに
パッシブハウスでは、空調設計も住み心地に直結するポイントです。
高性能なパッシブハウスでは、 4 kWエアコン 1 台( 14 畳用)で全館の空調をまかなっている事例もあります。
そのように、空調は最低限として 1 台〜 2 台で運転し、蓄熱式暖房や薪ストーブなどを併用する場合もあり、設計や地域の気候によって様々です。
また、換気設計には様々な考え方がありますが、パッシブハウスでは一般的に熱交換型の換気扇が推奨されています。
熱を有効的に回収することで、冷暖房がなくても家電や人から出る熱だけでカバーできる場合もあります。
4-4. 土地の自然や風土を活かした設計
ZEHと大きく異なるポイントは、日射や通風などが設計のベースになっている部分です。
土地の形状や周辺環境・地域の気候・風土を活かして、自然を取り込むことがパッシブハウスの設計の醍醐味でもあり重要な要素です。
5. パッシブハウスの事例 10 選
それでは、みなさんが気になるパッシブハウスの事例を見ていきましょう。
設計におけるパッシブハウスのポイントも紹介していきます。
自分の希望や条件に合ったパッシブハウスをデザインしてくれる建築家と話がしてみたい・紹介してみてほしいという方は、タイテルの建築家紹介 も便利です。
5-1. 雪国の寒さ対策がされている古民家リノベーション
1 つ目の事例は秋田県の湯沢地方での事例です。
古民家をパッシブハウスへリノベーションを行っており、特に雪国で冬の寒さ対策をしている点がポイントです。
土間や廊下を住宅全体にロの字型に回し、空気層で居室を囲い込むことで、外気の寒さが部屋に直接的に伝わらない工夫がされています。
また南面には大きな開口が取られており、日中に晴れていれば日射を最大限取り込むことができると共に、バリアフリーにも配慮された住宅となっており温熱環境・住みやすさの両方に配慮された設計です。
5-2. 庭との連続性で自然の開放感を感じる家
こちらの事例はリビングを東西に長くすることで、南面の面積を広くとっている住宅です。
建物はシンプルな構成ではあるものの、天井を高くしていることで、夏は上昇した空気が東西に抜けるような設計になっています。
また、深い軒(のき)を設けることで夏の日射が部屋の奥まで入り込まないように工夫されています。
冬は土壌蓄熱床暖房によって、浴室まで足元から温かい温熱環境になる、まさに年中快適なパッシブハウスと言えます。
5-3. 段差が作り出す陰影で自然を感じる家
こちらの事例は、フロアが 1 つの大きな空間になっているものの、段違いが生み出す個室感が特徴の住宅です。
部屋を南北にずらして配置することで、緩やかに南北方向に風が抜けることができ、初夏~秋にかけては気持ちのよい空間を創り出します。
また部屋の南面ごとにキューブ状の大きな窓があり、南北に部屋をズラすことで光庭のような空間がたくさんできます。
効能としては、日差しを満遍なく取り入れることもでき、冬場も明るく暖かい環境になります。
5-4. 日差しと通風が織りなす開放的住宅
こちらの事例は、 60 代のご夫婦が住まう住宅での事例です。
「日常的」な生活空間は 1 階に配置し、縁側を介して庭との空間の連続性が感じられるオープンな設計になっています。
また、「非日常的」な場所を客間として 2 階中央に配置し、客間の周囲は日射を取り込める縁側、光縁が設計されている。
カーテンでゆるく仕切ることで、光と風といった自然の要素にそのまま呼応した「揺らぐ光溜」が特徴的な事例です。
5-5. パブリックとプライベートを両立したオープンな二世帯住宅
1 つのフロアをオープンにとり、通風と日射を最大限取り入れる設計になっている 2 世帯住宅の事例です。
1 階は土間や外部との繋がりが開放的な、オープンな設計になっています。
南北で開放できる間取りは、通風を取り入れて熱籠りのないパッシブな設計であり、同時に春には室内から公園の桜を見ることができる配慮までされています。
2 階は室内の 2 つのインナーガーデンが印象的ですが、これらの植栽によって風と自然光を一層感じることができる心地良い環境が特徴的です。
太陽の角度が高い夏は、植栽まわりのみに日射を取り込み、冬は角度が浅くなることで広い範囲に日射を取り込み、暖かい環境を創り出します。
5-6. 日射により四季で表情を変える家
こちらの事例は、岐阜県可児市の事例です。
夏の暑さが全国的にも厳しい地域ならではの設計がされています。
開口部は南北面に絞り、リビングダイニングそれぞれに吹き抜けを設けた構成になっています。
北からは朝日が夏の訪れを、南からの光が冬の訪れを知らせてくれる光環境となるように設計されており、四季に応じた日射の取り込み方になっています。
5-7. 森を感じる軽井沢の山荘
こちらの事例は軽井沢の森にたたずむ別荘の事例です。
ワンフロアで大きな空間であるリビングダイニングには、南面の全面開口によって 1 年中明るい部屋として設計されています。
夏場には日射を制限する格子を設けることで遮熱の役割を果たすと同時に、陰影が創り出す落ち着いた贅沢な空間を演出します。
そして裏千家の茶道教授が、別荘でも茶の湯を楽しめるよう 1 階にある茶室としての和室もある非日常をかなでる別荘です。
5-8. 海岸沿いのパノラマウィンドウ・パッシブハウス
海岸沿いに建てられた住宅の事例です。
海岸側へ大きく窓がとられており、明るく日射をしっかり取り込むことができます。
また吹き抜け部分に暖炉が設置されており、冬は日射との併用であたたかさを確保しています。
また、ダイニング側は 2 階をオーバーハング(出っ張らせる)ことにより、日射の取得を制限している設計もあり、開放感と住みやすさを両立させている事例でもあります。
5-9. 季節によって衣替えをする家
9 つ目は、秋田県の事例です。
豪雪地帯であることを考慮し、 1 階には、駐車場のほかに使用頻度の少ない和室などを配置するのと同時に防犯・雪の影響を考慮して開口部をなくしています。
夏には内側の建具を開放し、風ぬけのいい解放性の高い「夏の家」として使われます。
反対に、冬には内側の建具を閉じて柔らかい光に溢れたコンパクトで静かな「冬の家」として、季節によるフレキシブル性も特徴です。
5-10. インナーテラスと大きな窓が特徴の家
東京の丘陵地域に建てられた住宅で、庭と連続性があるインナーテラスが印象的な事例です。
道路から半層下がっている庭はプライベート感が保たれており、庭と一体となった開放感のあるリビングには光をしっかり取り込むことができます。
吹き抜けの上部には大きな FIX窓を設けており、夏場はロールスクリーンなどで日射を制限する調整も簡単にできる設計になっています。
6. まとめ
titel(タイテル)の建築家によるパッシブハウスの事例をご覧いただきました。
どれも性能はもちろんですが、家本来の住みやすさ・デザイン・心地よさを感じて頂けたのではないでしょうか。
パッシブハウスには、各地域や土地ごとで様々な設計とバランス感覚が大事です。
titel(タイテル)には全国各地の建築家が登録しており、唯一無二の注文住宅を建てるのであれば、 titel(タイテル)の「建築家紹介サービス」 をぜひご活用ください。一級建築士の資格をもつタイテル建築アドバイザーがご要望を伺って、ぴったりの建築家・設計事務所をおつなぎします。