のどかな住宅地に建つ二世帯住宅の計画である。敷地北側に公園が隣接していたため、子供の日常的な遊び場や借景として公園とのつながりが要望された。そこで建物北面に引込みの開口を設け動線と視界の繋がりを確保し、広めのエントランスと段差を設け春には室内から花見が楽しめるようにした。北側に土間エントランス、南側にプライベートガーデンを緩衝スペースとして設けることで外部環境を内部空間に緩やかにつないでいる。二世帯間は階段室と収納を収めたヴォリュームを境に東西に隔てられ、南側の世帯間に設置した引戸によってフレキシブルに区画されている。実際日中は戸が開いていることが多く、世帯間を越えて子供たちが走り回りフロア全体が回遊性のある遊び場となっている。
2階は子世帯の居住スペースである。13の要望諸室を満たしながら互いに閉じることなく共存するためにまず2階全体を一坪グリットに分割し、境界としての半壁を設置しそこに諸室を配置した。さらに一坪グリッドの垂壁を用いた構造計画により視界を遮らない無柱空間となっている。腰壁は緩やかな境界として機能し立位時には全体が見渡せるパブリック空間となり、臥位や座位時は腰壁に隠れてプライベート空間になるといった、体位によって同一空間がパブリックとプライベートを併せ持つ構成となっている。グリットにあわせた居室配置は水周りを除き子供の成長に合わせて用途を変えられるようになっており、また2つのインナーガーデンが採光と通風を担うことで室内は風に揺らめく植栽と自然光によって心地良い外部環境とつながっている。
この住宅は「住宅と周辺地域」「二世帯間」「居室における個と共有」を要点とした計画であるが、実際にご家族がこれら双方を横断しながら自由に暮らされている様子を拝見し、形態や図式に偏らない「関係性の提案」が日常に浸透していることが嬉しく思えた。