建築家(設計事務所)と建てる長期優良住宅
長期優良住宅認定制度は平成21年より始まって、住宅業界でもだいぶ浸透してきましたが、そもそも長期優良住宅ってどんな家?という疑問をお持ちの方も多いでしょう。
今回は、長期優良住宅の基準や条件、そして建築家(設計事務所)でも長期優良住宅って建てることができるの? 建築家ならではのメリットはどんなところ?このような疑問にお答えしていく内容になっています。
新築ではデザインも当然こだわりたいけど、住宅の基本性能もしっかり抑えたい!という方に必見の内容ですが、失敗・後悔しないように今回の記事を参考にしてください。
まずは記事のポイントをおさえていきましょう。
- 長い期間安心して住まえる性能や設計になっている家であることを、第三者機関による評価を基に認定する制度が「長期優良住宅の認定制度」です。
- 長期優良住宅は、認定するための条件が 9 つあります。
- 長期優良住宅の認定を受けることで、住宅ローンの金利優遇や税制上の優遇があるが、申請にコストもかかることから、必ずしも長期優良住宅認定でメリットが上回るとは限らず後悔に繋がるリスクも。
- 建築家で長期優良住宅を建築する場合の目安のコストは、木造では坪単価で約 80 万円~、鉄骨や RC 造では坪 100万円~となる。(ウッドショックや原材料高騰で今後上がる可能性は高い)
- 長期優良住宅の認定を取得するかどうかは、トータルのバランスを考える必要があり、建築家では長期優良住宅の認定のメリット・デメリットを考えて判断できる。
1. 長期優良住宅とは
まずは、長期優良住宅についてキホンのポイントを解説していきます。基本の内容をご存じの方は2の章へ読み飛ばしてもらって構いません。
1-1. 長期優良住宅とは
長期優良住宅はその名の通り、長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられた優良な住宅(国交省)と定義されていますが、イメージしにくいですよね。
要約すると、住宅を長持ちさせるための 9 つの項目でそれぞれ条件を設けて、その基準をクリアした家のことを言います。
その基準自体は、「住宅性能評価制度」という統一の評価内容で決まっており、 1 つ 1 つ基準をクリアしているかどうかを、第三者機関で査定します。最終的には、その評価内容を記した書類や図面を所管行政庁(都道府県、市または区)に認定申請を行うことで、「長期優良住宅」としての認定を受けます。
それでは、長期優良住宅にするために必要な 9 つのポイントを紹介していきます。
1-2. 9 つの条件
※出典: 一般社団法人 住宅性能評価・表示協会
長期優良住宅は、こちらに示す 9 つの基準を全て満たすことで認定を受けることができます。
- 耐震性能:耐震等級 2 もしくは耐震等級 3(建築基準法の 1.25 倍以上の耐震性)
- 耐久劣化性:劣化対策等級 3 (床下空間の高さが 330 mm以上など)
- 省エネ性:省エネ等級 4 以上(一次エネルギー消費量が規定以下)
- バリアフリー性:バリアフリーに配慮されたな設計になっていること
- 可変性:間取り変更が可能になっていること
- 維持保全計画:将来にわたって定期的な補修計画があること
- 維持管理・更新の容易性:内装や設備配管などでメンテナンスしやすい設計になっていること
- 居住環境:地域において良好な環境形成に配慮されていること
- 住戸面積: 1 つのフロアで 40 m² 以上、延床面積で 75 m² 以上あること
以上のような 9 つの項目をクリアすることで長期優良住宅となります。
建築家でも、長期優良住宅に適合するような家を設計することはもちろん可能です。
ここで設計士などによる特段の計算が必要な項目は、① の耐震性と ③ の省エネ性ですが、こちらも建築家では自社で対応することができます。
特に、新築する際に重要な耐震性能を表す、耐震等級は「等級 2 」から取得可能ですが、できれば耐震等級 3 を取得するようなプランが安心感が高いと言えます。
耐震等級については、 こちらの記事 で詳しく解説しており、併せてご覧ください。
1-3. 2022 年度から長期優良の基準改正
※出典: 国土交通省
さて、長期優良住宅は平成 21 年、すなわち 2009 年からスタートしていますが、2022 年 10 月 1 日から「認定基準の見直し」がされます。
ここで見直しがされるのは、断熱性能と省エネ性能ですが、これまでの基準より強化される形です。
【今まで】
- 断熱性能:断熱等級 4 (東京などの 6 地域では UA値換算で 0.87 W / m²・K 以下)
- 省エネ性:一次エネルギー消費量等級 5 (一次エネルギー消費量が基準一次エネルギー以下)
【これから】
- 断熱性能:断熱等級 5 (東京などの 6 地域では UA値換算で 0.60 W / m²・K 以下)
- 省エネ性:一次エネルギー消費量等級 6 (一次エネルギー消費量が基準一次エネルギーより 20 %以上削減)
それぞれを、わかりやすく説明していきます。
断熱性能は、東京などの一般地( 6 地域)で新築する場合、今までは外皮計算という断熱計算を行って、 UA 値で 0.87 W / m²・K 以下という性能があればクリアできました。改正後は、この断熱性能を従来の ZEH 基準とされていた UA 値 0.60 W / m²・K 以下まで断熱性能を向上させる必要があります。
そして、省エネ性能は一次エネルギー消費量という指標で示されます。一次エネルギー消費量は、その家が年間で使うと想定されるエネルギー量を示すための計算です。今までは、地域・家の大きさなどから算出される、個々の基準(基準一次エネルギー消費量)を少しでも下回っていればクリアしていました。しかし、改正後はこの基準から 20 %以上の削減率が必要となってきており、その家で使うと想定される省エネ性能も高いレベルが要求されてきます。
2. 建築家(設計事務所)だからこそできる長期優良住宅の魅力
ここからは、建築家もしくは設計事務所だからこそできる、長期優良住宅の魅力に迫っていきます。
2-1. デザインと基本性能を両立できる
長期優良住宅はあくまで、その家の性能や長期間住めるような措置が施してあるかどうか?という基準です。しかし、この 9 つの基準をクリアしていこうと思うと、間取りや設計に深くかかわってくる部分が「耐震性能」「省エネ性能」です。
特に耐震性能をクリアしようと思うと、耐震等級 2 もしくは 3 と、建築基準法に比べて強化する必要があり、それに伴いどうしても柱や壁が多くなってきます。柱や壁が多くなると、当然開放感が犠牲になってきたりすることが想定され、一般的な住宅会社の設計レベルになってくると、開放感やデザイン性との両立が非常に難しくなってきます。
また、省エネ性能も同様に性能を確保しようと思うと、例えば窓の大きさを制限することになったりと、少し制約の多い家づくりになりがちです。
建築家では構造も含めて自由設計になっていますので、意匠設計と構造設計を絡めながら設計を組み立てていくことができます。優先順位も考慮しながら家づくりの設計ができるため、長期優良住宅の取得と並行しながら間取りやデザイン性との両立が可能です。
2-2. 自由設計だから改正項目も対応・幅広い選択肢
長期優良住宅は、2022年 10 月 1 日から省エネ性に関わる部分が改正されます。断熱性・一次エネルギー消費量について強化されますが、建築家であれば構造含めて自由設計で 1 から創り上げていくため、改正項目にも適合した設計が可能です。
また、お施主様が要望される範囲や地域性も考慮しながら、建築家ではベストな提案を行っているため、必ずしも長期優良住宅の取得を ” 標準 ” としていません。長期優良住宅を取得した方が、お施主様にとって良い状況、もしくはお施主様の優先順位が高い場合は適合させますが、条件によっては長期優良住宅の取得をオススメしない場合もあります。
このように総合的な視点からも提案できる点が、建築家もしくは設計事務所ならでは、のポイントではないでしょうか。
自分たちに合った長期優良住宅を設計してくれる建築家と話がしてみたい・紹介してみてほしいという方は、タイテルの建築家紹介 も便利です。
3. 長期優良住宅のメリット
それでは、長期優良住宅の認定を受けることによるメリットを紹介していきましょう。
3-1. 長期にわたって安心して住める家の第三者認証
1 つ目のメリットは、第三者機関による認証で「長期間安心して住める家」として認定を受けることで、将来的にコストがかかりにくいことや、将来に売却する場合も買い手側が安心して購入できるなど、資産価値を上げるメリットです。
耐震性が優れていることで地震に強く、また維持管理しやすいような設計になっていることでリフォーム等の際にもリニューアルしやすいため、余計なコストがかかりにくくなります。
また、将来的にその家を売却するような場合も、長期優良住宅という認定があることで「しっかりした家」という印象が高くなります。中古住宅を購入するとき、皆さんは「どこの工務店がどんな工事をして建てたのか?」といったことも気になりますよね。長期優良住宅であれば、性能値がしっかり明示されているため、買い手側が安心して購入することができ、売却もしやすい資産となります。
そして長期優良住宅を取得できている=耐震性に優れた家であるため、地震保険の割引の対象にもなってきます。ただ、地震保険の割引だけであれば長期優良住宅の取得は必須ではありません。
3-2. フラット35利用の場合は金利優遇
一般的な住宅ローンでも長期優良住宅であれば、銀行によっては一般金利より安くなる場合があります。
特に固定金利になっているフラット 35 を利用する場合、最初の 10 年間で 0.25 %優遇される制度があるため、借入金利を抑えることができます。
例えば 3,500 万円の借入をする場合、この優遇の有無で約 88 万円もオトクになります。
※試算条件
借入額 3,500 万円・借入期間 35 年・借入基準金利 1.8%
基準金利での総返済額:約 4,720 万円(優遇有での総返済額:約 4,632 万円)
フラット 35 を利用する場合は、申請費用を考えても長期優良住宅の認定を受けた方が明らかに経済的にはオトク、といえます。
3-3. 住宅ローン控除枠が拡大
新築をローンで購入する場合、住宅ローン控除という制度を受けることができます。住宅ローン控除とは、住宅ローンの残高に応じて年間で支払った所得税、条件によっては住民税を、最大で 13 年間還付してもらえる制度です。
ここで長期優良住宅の認定を受けることで、控除される住宅ローンの最大上限額が異なってきます。
長期優良住宅 | 一般住宅(認定なし) | |
---|---|---|
控除最大限度額 | 5,000万円 | 4,000万円 |
最大控除額 | 455万円 (各年では 35 万円) |
364万円 (各年では 28 万円) |
控除期間 | 最大で13年間 | |
※各年ごとに、住宅ローン残高の 0.7 %もしくは、各年の最大控除額が限度額となる |
ここでの住宅ローンの控除を最大限受けるためには、住宅ローンの残高が 10 年後でも 4,000 万円以上残っていることや、年間で納めている所得税・住民税が 28 万円以上ないと長期優良住宅にするメリットを受けることができません。
一般的な所得の方であれば、正直ここのメリットを使い切ることができない可能性が高いと言えます。
3-4. 減税制度を受けることができる
長期優良住宅では新築時にかかる税金に対して、減税制度を受けることができます。
① 固定資産税が 2 分の 1 に減税
一般住宅:3年
長期優良住宅:5年
② 不動産取得税の控除
一般住宅:控除額 1,200 万円
長期優良住宅:控除額 1,300万円
③ 登録免許税の税率引き下げ
【保存登記】
一般住宅: 0.15 %
長期優良住宅: 0.1%
【移転登記】
一般住宅: 0.3 %
長期優良住宅: 0.2%
もっとも効果がわかりやすい点は、固定資産税です。固定資産税が 2 分の 1 になる期間が 2 年間延長になるため優遇される額も、年間で何万円という単位になってきます。固定資産税が高い建物や地域では、長期優良住宅にするメリットが高くなってきます。
② の不動産取得税の控除は、あくまで評価額から控除される金額が増えるだけで実際の節税額としては少なく、また同様に ③ の税率引き下げも節税額としては期待するような額になることは少ないと想定されます。
4. 長期優良住宅のデメリット
つづいて、長期優良住宅のデメリットを見ていきましょう。
4-1. 申請にコストがかかる(約 20 万円~)
長期優良住宅の認定をうけるためには、まず「住宅性能評価」を受ける必要があります。長期優良住宅の解説で出てきた、 9 つの項目を第三者的な立場で審査する機関で査定してもらうために費用が必要になってきます。ここでの費用は、目安としては約 20 万円~ と想定してもらえればよいでしょう。
しかし、この 20 万円は申請にかかる費用になってくるため、他に構造計算などにかかる費用が発生する場合もあります。
また、長期優良住宅のメリットは、個々のローンの組み方・建物や土地の評価額などで大きく変わってきます。建築家に、コストとメリットのバランスを考えてもらいましょう。
4-2. 定期的なメンテナンスが必要
これは長期優良住宅に限らず、全ての住宅で言えることではありますが、特に長期優良住宅では保全計画があらかじめ立てられているため、それに沿ったメンテンナンスが必要です。
あえてデメリットという観点ではないかも知れませんが、長期優良住宅でこのような計画に沿ったメンテナンスをしていないとなる場合、行政から改善指導が入ったり、場合によっては長期優良住宅の認定の取り消しになります。
取り消しになると、税制優遇が受けられなくなると共に、新築時に長期優良住宅として補助金などを受けている場合は、返還する必要が出てきます。
過去には、施主側のメンテナンス不備による取り消し例は、あまり聞いたことがありませんが、注意するに越したことはなく、むしろ自邸のために必要な措置です。
5. 建築家(設計事務所)で建てる長期優良住宅の費用目安
それでは、最終的に建築家で長期優良住宅を建てたい!とおもった際に、気になるコスト感をみていきましょう。
自分の条件や予算に合った建築家を紹介してほしいという方は、タイテルの建築家紹介 をご利用ください。
5-1. 木造であれば坪単価 80 万円~
木造での設計であれば、目安となる坪単価は 約 80 万円~となります。
一般住宅に比べて、長期優良住宅にするためにコストが上がる可能性がある点は、主に耐震性と省エネ性でしょうか。ただ、長期優良住宅自体の基準に既に適合している性能で設計される建築家はこの限りではなく、必ずしも長期優良住宅にするからコストが上がるわけではありません。
コストは重要な要素ではありますが、コストだけに気を取られることなく全体バランスと、ご家族の家づくりにおける意向・要望の優先順位を考えながら建築家に相談しましょう。
5-2. 鉄骨造・RC造であれば坪単価 100 万円~
鉄骨、もしくは RC 造(鉄筋コンクリート造)であれば、目安として坪単価は 約 100 万円~となります。
鉄骨や鉄筋コンクリート造では、木造に比べて耐震性の確保などはしやすい反面、断熱性能は考慮する必要があります。ただ、構造そのもののコストが異なることから、おおよそのケースで鉄骨造・鉄筋コンクリート造が高くなる傾向にあります。
構造的にこだわりたい場合や、都市部の防火地域に建てる場合などには有効な構造躯体ですが、ここも間取りや設計におけるメリットを、コストまで含めて検討できる点は建築家ならではのポイントでしょう。
6. まとめ
最後に、建築家で長期優良住宅を検討する最大のメリットは、構造躯体や間取り・設計コンセプトをベースに、長期優良住宅自体の取得によるメリット・デメリットを考慮してくれる点です。
長期優良住宅のポイントや、メリットなどを解説してきましたが、実は必ずしも認定を取得するコトだけがメリットに繋がるとは限りません。例えば耐震性能にこだわりたいのであれば、長期優良住宅の認定を受けなくても、耐震等級 3 の取得が可能です。
長期優良住宅や資産価値が気になる方は、家づくりにおいて大事な優先順位も考慮しながら、トータルの俯瞰的な視点で設計をしてくれる一級建築士の資格をもつタイテル建築アドバイザーに相談 してはいかがでしょうか。