建築家(設計事務所)と建てる高断熱高気密住宅
今回は titel(タイテル)の建築家による高断熱・高気密住宅の特徴を探っていきます。
建築家で高断熱・高気密の住宅を建てることができるの?
建築家だからこそできる、一般のハウスメーカーなどとの違いはどんなところ?
このようなポイントを中心に、高断熱・高気密住宅のメリットをみていきましょう。
それでは、まず今回の記事のポイントを冒頭に紹介します。
- 高断熱・高気密住宅は一般的には UA 値と C 値で表されるが、必ずしもこの 2 つの指標だけが重要とは限らない。
- 土地に合わせた暮らし方、その家族に合わせた間取りと性能を選ぶ幅が広いことが建築家で建てるメリットと言えます。
- 高性能住宅のメリットは、快適性と光熱費の抑制に集約されるが、建築家ではデザイン性との両立ができる。
- 高性能な木造を、建築家では坪単価で約 80 万円(目安)〜で建築可能です。
1. 高断熱・高気密住宅とは
まず、高断熱・高気密住宅のキホンをみていきます。
この 5 年 ~ 10 年で、住宅市場は全体的に高断熱・高気密化が進みました。これは京都議定書やパリ協定に代表される世界的な脱炭素の流れを汲んでの措置であり、日本全体で消費するエネルギーを減らすことに起因しています。
※出典: 東京ガス
その中で高断熱・高気密住宅は、昔に比べて使用量が上がり続けている住宅分野でのエネルギー削減が期待されています。家の保温性を向上させることで「快適性の向上」と「光熱費の削減」の 2 つのポイントですが、特に「光熱費の削減」=「使うエネルギーを抑える効果」となります。
それでは、具体的に高断熱・高気密の定義をみていきましょう。
1-1. 高断熱・高気密の住宅の定義
実は高断熱・高気密住宅と言っても、どこからどこまでといった明確な定義はありません。
ただ指標となる目安はあります。しかし、この指標における数値を超えたからと言って必ずしも、快適性などに直結するわけではありませんので、あくまで目安程度として考えましょう。
高断熱の目安
公の目安となっている「断熱等級」で考えるとわかりやすいでしょう。
2021 年までは 4 段階の指標で最もランクの高い「断熱等級 4 」が、次世代省エネ基準をクリアするランク設定となっていました。しかし、この指標では少し高断熱と言い難い性能であったため、2022年に新たにさらに高いランクが 3 つ追加され、合計で 7 段階の指標が設定されました。
上図では、断熱等級の全体像を表していますが、建築業界で一般的に高断熱の最低限と言われるレベルは「ZEHレベル」=「断熱等級 5 」以上です。ZEH レベルの断熱性能があれば、おおむね求められる温熱環境が実現しやすくなります。
また具体的な数値としては、「 UA 値(ユーエーち)」で表しますが、この基準となる UA 値は地域の気候に合わせて設定されています。
高気密の目安
断熱に関しては上記のように公の基準がありますが、気密性能に関しては明確な基準設定がありません。
気密性能は、家の隙間を実測して出す性能であり、施工精度や工法で左右されます。具体的な指標としては「 C 値」という数値で表され、家全体の隙間の面積を床面積で割った数値になります。
公の目安としては、次世代省エネ基準にある「 5.0 cm² / m²」というレベルです。しかし、この 5.0 cm² / m² は換気の効率など様々な観点から高気密と言うのは不十分なレベルです。
※出典: 鳥取県
上図は、鳥取県が独自で推進している健康住宅と言える住宅性能基準ですが、ここでは公共機関が示す指標の中で、はじめてとも言える気密性能を設定しています。この表を見ると、推奨されるレベルを「 C 値:1.0 cm² / m² 以下」としています。
※出典: パナソニック
換気の有効性としても、おおむね C 値で 1.5 ~ 1.0 cm² / m² 以下で有効性が出るため、高気密住宅と言えるレベルは、「 C 値:1.0 cm² / m² 以下」と言えるのではないでしょうか。
2. 建築家(設計事務所)だからこそできる高断熱・高気密の魅力
つづいて、建築家(設計事務所)だからこそできるポイントをみていきましょう。
2-1. デザインと性能を両立できる
最大のポイントは、デザイン性を損なうことなく性能を両立できることです。
高断熱・高気密住宅の傾向としては、どうしても開口部が少なく閉塞的な住宅になりがちです。その理由は、熱が逃げやすい窓を少なくすることで断熱性能が上がるため、性能を追求し過ぎると間取りや実際の暮らし方に影響が出てくることも考えられます。
建築家に設計してもらう最大の魅力は「唯一無二のデザイン性」ですが、断熱気密性能の要望ももちろん可能です。建築家では、その地域や気候、そして土地の特性まで考慮した最適な性能を、ベストな間取りと相関して設計できます。
2-2. 開放感を犠牲にしない工夫ができる
上記で解説したように高断熱・高気密住宅の傾向は、開口が小さくなりがちです。
住宅性能を優先するのか?それとも、住まい心地を優先するのか?建築家では、それぞれのご家族の価値観に合わせた提案ができますが、住まい心地や実際の使い方を妥協しないポイントが特徴と言えるでしょう。
せっかくの新築で閉塞感があるのは残念ですが、性能を考慮しつつ実際の満足感に直結する開放感を犠牲にしない工夫をしてくれます。
2-3. 地域や考え方に応じた自由設計ができる(パッシブハウスの考え方)
高断熱・高気密住宅は、UA 値や C 値といった性能を徹底的に上げる考え方と、パッシブハウスと言われる自然の力を利用する設計の考え方があります。
おおむね、高断熱・高気密を訴求する住宅会社では前者が比較的多いイメージですが、建築家や設計事務所では後者が多いイメージです。
パッシブハウスは特に地域の特性を活かした設計を行います。高断熱・高気密といった性能値だけでなく、夏はブラインドで日射を遮ること、反対に冬は太陽の日射による熱を取り入れて暖房の負荷を軽減するという考え方が付加されます。そのため、パッシブハウスでは南面に大開口を設けていますが、日射を調整できるような設計がされており、季節に応じた設計ができます。
このように、その土地に合わせた暮らし方、その家族に合わせた間取りと性能を選ぶ幅が広いことが建築家で建てるメリットと言えます。
パッシブハウスを詳しく知りたい方は、 失敗しないパッシブハウスの真の考え方と事例10選! も合わせてご覧ください。
3. 高断熱・高気密住宅のメリット
それでは、高断熱・高気密住宅のメリット 4 つをみていきましょう。
3-1. 住んでいて温熱環境が快適(断熱・気密)
1 つ目は、四季を通じて快適に暮らせることです。
日本は北から南まで多様な四季がありますが、温熱環境の変動を小さくして部屋の中の環境を改善する効果があります。
断熱性能を向上することと、冷暖房の効きがよくなり、さらには部屋の中でも温度差が少なくなります。例えば、性能が低い住宅では、暖房をしていても足元が寒いといった状況がよく起きますが、高断熱住宅ではこの温度差を少なくします。
そして気密性能も向上させることも、部屋の中の温熱環境を均一化するためには有効です。
3-2. 光熱費が抑えられる(断熱・気密)
2 つ目のメリットは、冷暖房にかかる光熱費が少なくなります。
※出典: 経済産業省 資源エネルギー庁
年間を通じて、家庭で消費されるエネルギーで多くの割合を占めているのは、給湯と冷暖房設備です。家を高断熱・高気密化することで、この比率の高い冷房・暖房にかかるエネルギーを減らすことができます。
これは同時に家計に直結する光熱費にも比例してきます。特に寒冷地であれば、その効果は大きくなりますので、住んでからのランニングコストを減らすことができる点は、最も実感しやすい効果とも言えます。
3-3. 壁内結露の防止や換気がスムーズになる(気密)
実は気密性能を向上させる効果は、あまり知られていません。
気密性能を上げると隙間風が減るため、冷暖房の効きを良くする効果は容易に想像できますが、これ以外では 「換気の有効性」と「壁内結露の抑制」の 2 つをカンタンに解説します。
1 つ目は、気密性を上げることで換気の有効性があがる点です。隙間が多い家は、換気扇でしっかり家の中の空気を排出し切れませんが、気密性能があがることで、家じゅうの空気を計画的に換気できます。例えるなら、穴があいているストローでは吸えないのと同じように、気密性能は換気の有効性と深く関係しています。
2 つ目は壁内(内部)結露の防止です。隙間が多い家では、特に冬季に壁の中に湿気を含んだ空気が入り込んで、壁内結露の原因になります。
気密性能を上げることは、家を長寿命にすることにもつながります。
3-4. 条件によっては補助金の対象
高断熱・高気密住宅の最後のメリットは、補助金の対象になることです。新築や大規模なリフォームをする場合、せっかくなら利用したい補助金ですが、省庁から出る住宅関係の補助金では「高断熱」であることが前提条件になっていることがほとんどです。
国としてもエネルギー消費を抑えるために、補助金で高性能な住宅の普及を促進したい思惑もあり、補助金の条件やタイミングが合えば高性能な住宅をオトクに買えます。
4. 高断熱・高気密住宅のデメリット
一方で、メリットの反対であるデメリットもあります。
4-1. 断熱気密にかかるコストが高くなる
高断熱・高気密住宅のデメリットは 1 つで、建築コストが高くなることです。
一般的な住宅(次世代省エネ基準)に比べて、どうしても高性能な断熱材・窓サッシを使ったり、気密に関わる施工精度を上げるためのコストがかかります。建築家では、標準仕様のようなものはないので、断熱材や窓サッシのレベルも自由に選択可能ですが、断熱性能・気密瀬能を向上させていくと、比例してコストは上がっていきます。
しかし、ここでの注意点は「イニシャルコストばかりに気を取られないこと」です。
イニシャルコストは使う部材によって高くなるのは当然ですが、それに伴い 2 つ目のメリットで紹介した光熱費を抑制できます。イニシャルコストとのバランスを考えることも重要な要素ですが、少なくともランニングコストを下げる効果は期待できるため、イニシャルとランニング両方を加味したコストで検討することが大事です。
5. 建築家(設計事務所)で建てる高断熱・高気密住宅の費用目安
最後に、みなさんが気になる建築家で高性能住宅を建てたときのコスト感を紹介します。
なお、使う部材や間取り・仕様によって大きく変わってきますので、あくまで目安とお考えください。
5-1. 木造であれば坪単価 80 万円~
木造であれば目安となるコストは、坪単価で言えば約 80 万円~と思っておくと良いでしょう。
建築家では鉄骨造・鉄筋コンクリート造など幅広い構造まで選べることがメリットですが、一般的には木造が最もコストを抑えて建築することができます。また、木造は素材自体が熱を通しにくいため、断熱性能を高めやすい特性もありますので、高性能な住宅にこだわりたい方にはオススメの工法です。
そして、多くの建築家が木造を手がけており、木造が不得意な建築家は少ないため、建築家自体を選ぶ際も選択の幅は広いです。
5-2. 鉄骨造・RC造であれば坪単価 100 万円~
鉄骨造もしくは RC 造(鉄筋コンクリート造)では、目安となる坪単価約 100 万円~と考えてもらうとよいでしょう。
木造と比べると、どうしても高額になりやすいですが、鉄骨造・ RC 造でしかできない間取りや開放感があります。
一方、木造に比べて素材自体が熱を通しやすいため、断熱性能を高めていくとコストも高くなっていきやすい傾向がありますので、建築家とコストとのバランスをしっかり考えて検討することをオススメします。
6. まとめ
高性能住宅自体は、巷の住宅会社や大手ハウスメーカーでも建築可能です。
しかし、建築家に依頼する理由は、やはり性能とデザイン性の両立、そして提案の幅の広さになります。建築家は、構造躯体の種類・地域・土地の特性まで考慮して、バランスが取れた性能で自由に設計可能であり、一言で言い換えてしまえば「標準仕様に縛られない自由設計の高性能住宅」が最大の特長と言えます。
性能にこだわることは良いことですが、暮らしに大事なポイントまでバランスを取った高性能住宅を建てたい方は、ぜひ 一級建築士の資格をもつタイテル建築アドバイザーにご相談 ください。