玄関ポーチとは?計画時におさえておきたいポイントを紹介
玄関ポーチは一戸建てを訪問するときに第一印象を与える大事な「顔」ともいうべき構成要素です。デザインと機能性の双方をあわせ持つ必要があるため、建築後の生活を入念にイメージしなければならない設計の難しい場所でもあります。
「広さは?素材は?後悔しないためにはどうすればいい?」
設計士でも難しい以上、普段建築に携わっていない施主にとっては疑問が噴出していることでしょう。
本記事では、玄関ポーチの機能を解説するとともに、計画段階で抑えておくべきポイントを 7 つに絞って紹介します。
失敗談や、オシャレなポーチの事例も紹介するので、最後まで見てセンスのよい玄関ポーチを実現してください。
<目次> 玄関ポーチとは?計画時におさえておきたいポイントを紹介
1. ポーチとは?
ポーチとは、玄関前のエントランス部分を指します。
家族が毎日出入りするため、濡れにくさや掃除のしやすさなど、機能性に配慮した設計が求められます。来客にとっては招かれたときに最初に見て、家への第一印象を持つ大事な場所です。
機能性とデザインの両立が求められる、設計者の腕の見せどころといえるでしょう。
2. ポーチの役割
どうして玄関ポーチが必要なのか、ポーチの持つ役割を 4 つ紹介しましょう。
2-1. 屋内に水を入れない
ポーチの第一の役割は「屋内に水を入れないこと」です。
家から道路方向に向かって一定の勾配が設けられており、雨で濡れてもすぐに排水されます。
木造でも鉄筋コンクリートでも、家屋を劣化させる原因は「水」です。ポーチは水を迅速に排出することで家の健康を保つ役割を担っています。
2-2. 雨や日差しを遮る
多くの場合、ポーチには”ひさし”が設けられ、雨や日差しを遮ります。
ポーチがなければ、玄関を開けた瞬間に雨に濡れ、落ち着いて傘を差すこともできないでしょう。夏の暑い日はポーチがなければ強い日差しが玄関ドアに照りつけ、熱を家の中まで通してしまいます。
ポーチがあるため、私たちは安心して玄関ドアを開けることができるのです。
2-3. 外で使うものを置ける
外に置いておきたいものを雨風から守ることもポーチの役割です。
砂場で遊んだおもちゃ、水滴がついたままのサッカーボール、使用したあとの傘、生活をする中で室内に持ち込みたくないものを挙げると想像しているより多いもの。家の中に入れたくないものを室外に置き、室内を清潔に保つにはポーチは欠かせません。
2-4. 防犯・プライバシーを守る
しっかりと計画されたポーチは防犯やプライバシーを守ることにも役立ちます。
玄関を開けて一直線に家の中が見えてしまうことに抵抗がある人は少なくないでしょう
一方で玄関が道路から見えないと防犯面で問題が生じます。空き巣の 2 割は玄関ドアから侵入するというデータがあり、防犯を考えた設計の重要性が分かります。
計画的に設計することで防犯とプライバシーの両立を目指さなければいけません。
3. ポーチを計画するときにおさえておきたいポイント
ポーチには大事な役割が 4 つあることが分かりましたが、同時に日々の生活が楽しくなるオシャレなポーチも目指したいところです。
機能性とオシャレさ、両立を目指すためには抑えておくべきポイントが 7 つあります。
3-1. 広さ・形状
毎日の使い勝手を左右する最も大きな要素は「広さ」です。
一般的には畳1枚分のスペースがポーチの寸法として計画されることが多いですが、建て主によって適切な大きさは異なります。
例えば、自転車を雨に濡らさずサビを防ぎたい場合、ポーチ内に入れるためには幅 60cm、奥行き 180cm ほどの広さを確保する必要があります。
同様に、車椅子でポーチに入り、方向転換を行いながら玄関に入る場合は 150cm × 150cm ほどの広さが必要です。
このように、必要となるポーチの大きさは人によって異なり、ポーチで何をするのか、何を置くのかを明確にしなければ適切な広さを求めることはできません。
子育ての予定があるならベビーカーを置くスペース、将来宅配ボックスを置きたいなら専用のスペースを、ライフスタイルごとに考えてみましょう。
広さだけでなく、「ポーチの形状」も考えましょう。
玄関ドアとポーチを建物側に引っ込める、建物から突き出す、ポーチと駐車場をスロープ状にして一体化する案も考えられます。
ここでも、具体的な生活の想像が最適な玄関ポーチをつくる鍵になります。
3-2. 床の素材
「ポーチに使用する素材」は雰囲気を一変する力を持っています。素材によって扱いやすさも異なるので、ひとつずつ特徴を紹介します。
(1) タイル
多様なデザイン・大きさ・風合いの商品があるのでお気に入りのものを見つけることができるでしょう。ポーチに用いるタイルは、滑りにくい「外床用」を選ぶのがおすすめです。
(2) 天然石
自然な風合いが高級感を漂わせる素材。水気を吸いやすく、経年変化が起きやすいので、風合いの変化を楽しみたい人におすすめです。
(3) モルタル
シンプルなグレーのモルタルは、店舗でもおなじみの素材です。艶のある仕上げから、マットな仕上げまで好みに合わせることができます。コストを抑えつつ、お洒落なデザインを叶えられる万能な素材です。
(4) 洗い出し
小石を混ぜたモルタルを施工したあと、水で石が表面に浮くまで洗い出す仕上げ。使用する石や洗い出す度合いで印象が変わるので、職人の腕がでやすく、和風なインテリアにマッチします。
3-3. 屋根・庇
ポーチに設置する「屋根・庇(ひさし)」は雨や雪でポーチが濡れるのを防いでくれます。直射日光がポーチ・玄関ドアに直接差すことを防ぐ効果もあります。大きいほど汎用性が高くなり、ポーチに置いた傘や自転車など外に置いた物も濡れにくくなります。
日々の暮らしでも、傘の差し閉じの雨濡れ防止や、来客時にも効果を発揮するでしょう。
建築と一体となって、1 階部分の屋根が伸びる場合もありますし、あと付けで庇単体を取り付ける場合もあります。
屋根や庇を大きく伸ばしてアプローチまで伸ばすと、そのまま車を覆うカーポートにもなります。建築との一体感を出せるので統一感が出て美しい仕上がりになるでしょう。
3-4. ドアの種類
ポーチの雰囲気を印象づけるもののひとつが「玄関ドア」です。
一般的にはメーカーが生産している既製品を用いますが、囲気を重視する場合は造作で製作する場合もあります。アプローチ・ポーチ・玄関ドア・庇まで造作にこだわると一体感が生まれてスタイリッシュな空間になるでしょう。
金属製・木製など選ぶ素材によっても雰囲気は変わるので、家全体のデザインに合うものを選択しましょう。
もうひとつ、玄関ドアの選択で気をつけるべきなのは「開き勝手」です。
建物から玄関ドアに向かって、外に開くもの、内に招き入れるもの、大きく両開きになるもの、横方向にスライドするもの、多様な開き方があります。お年寄りや子供がよく使う場合には、少ない力で開閉がしやすい「引戸」がおすすめです。
玄関ポーチが狭く外開きの場合は来客にドアをぶつける場合もあるので、使用する場面を想像して選択しましょう。
3-5. 段差・スロープ
床下に湿気対策や配管用のスペースを確保するため、住宅には必ず「段差やスロープ」を設置します。
元々の地盤面や目的とする基礎の高さにより、段差の段数・一段あたりの高さは異なり、スロープも同様に勾配や長さが変わります。
段差の場合は一段あたりの高さ 15cm ほどが一般的な高さです。室内との関係性やデザインによってより低め、または高めを採用する場合もあります。奥行きは 30cm ほどが一般的です。広いほうが足で踏める面積が大きくなるので歩きやすいですが、大きすぎると逆に歩きにくくなります。
スロープは主に車椅子を利用する方や自転車を頻繁に利用する方が採用します。
車椅子の利用者が自力で登れる勾配は 1/12 ほどで、例えば道路から玄関ドアまで 50cm の段差をスロープでつなぐと 6m を超える長さのスロープが必要になります。
勾配が緩やかな場合は歩行者にとっても使いやすいので、道路から玄関ドアまで緩やかなスロープでつなぐ事例もあります。こちらは段差を設けず、駐車場の全体に勾配をつけた事例です。
3-6. 照明
夜遅くに帰宅したときに、暖かい光で照らしてくれる「照明」も玄関ポーチの構成要素です。
日常生活で手元、足元を明るくする必需品ですが、防犯面でも活躍します。人が近づいたとき自動で点灯する人感センサーを採用すれば、人が玄関に立ったことが分かります。空き巣は存在が明らかになることを恐れるので、簡単で高い効果を発揮する防犯対策といえます。
また、夜間の照明は思っていたよりまぶしいもので、人感センサーにすることで周囲の家を不必要に照らす心配がなくなります。
照明を選ぶ際にはデザインにも気をつけましょう。
使用率の高いダウンライトはポーチをすっきり見せ、出っ張りがないので掃除の面でもメリットがあります。
ポーチの壁面に取り付けるブラケットライトはデザインが凝ったものが多く、シンプルなポーチにワンポイントを飾ることができます。種類にもよりますが、広い範囲を照らすこともできるので、車の乗り降りや自転車での帰宅時に明かりを得られる効果もあります。
3-7. 防犯対策
ポーチを計画するときのコツ、最後の 1 つは「防犯・プライバシー対策」です。
防犯性能の向上とプライバシーの確保の両立を目指しましょう。
防犯を意識した玄関ポーチ計画では「クローズタイプ」と「オープンタイプ」どちらを採用するかが肝となります。
塀で道路側を囲い、玄関ドアが完全に見えないクローズタイプは道路を歩く人の視線を遮断しプライバシーの確保が容易です。中の様子が見えないので防犯面でも効果がありますが、一度敷地に入られると不審者の姿も隠してしまう弱点があります。
先述したセンサーライトのほか、監視カメラの設置や音の出る防犯砂利の使用など、侵入者の居心地を悪くする工夫が必要です。
道路から玄関ドアが見える「オープンタイプ」は、不審な動きがすぐに人目につくので通行人の目が監視カメラの代わりになります。
一方でプライバシーの確保が難しいので、例えば玄関ドアと道路は直角に配置して中の様子が見えないようにしたり、ルーバーや植栽で目隠しをする工夫が必要です。
こちらの写真の例では、オープンでありながら玄関ドアと壁の関係性を工夫することでプライバシーを確保しています。
4. 失敗談の例
ここまで 7 つのコツを解説してきましたが、次に「こうすればよかった」という失敗談をご紹介します。
1 つめは「風よけの設置」です。
風の強い地域では防風林など、強風を和らげる工夫が考えられてきました。風よけの重要性は今も昔も変わらず、強風地域では重要なものです。
玄関から室内へ寒風が吹き込んだり、一緒に砂が入り込んだり、玄関ドアが急に締まったりと、「風よけを設置しなかったばかりに…」という失敗があります。
玄関ドアの位置を建物側に引っ込めるだけでも効果がありますし、風上に壁を一枚設置するだけでも軽減できるので、風の強い地域に家を建てる場合は検討するようにしましょう。
2 つめは「ポーチ・庇が狭かった」です。
ポーチは人の出入りに加えて、物を置く、来客用のベンチを置くなど、多目的に使用する場所です。狭く作ることで、「もっと広く作っておけば…」という後悔につながることは多いでしょう。
庇も同様に、広く作ると雨に濡れない範囲が広がるので、日常生活が楽になり、場合によってはカーポートと兼用できる場合もあります。逆に一度小さな庇として建築してしまうと、後から大きくするのは難しいので、「もっと大きくすれば」と悔やむことが多いポイントです。
5. 建築家が手がけた玄関ポーチの事例
ここまで玄関ポーチの基礎知識やコツについて述べてきましたが、最後に建築家が手がけたこだわりの玄関ポーチを写真とともにご紹介します。
5-1. 防犯とプライバシーを両立した「クローズドタイプ」の玄関ポーチ
紹介する事例は道路からの目線を遮りながら、人目を完全に切らない絶妙な加減の玄関ポーチです。
防犯面・プライバシーへの配慮に加えて、素材の使い方もこだわりを感じます。
玄関ドアとポーチ天井の色味、床面とポーチ壁面の色味を落ち着いたトーンで統一していて、高級感を醸し出しています。
5-2. 統一感のある玄関ドアと利便性の高い駐車場
こちらのお家は外壁一面を鋼板で覆っており、玄関ドアも同じ素材で統一しています。
建築家に依頼すると統一感を出すため、玄関ドアまで特注で造作にすることがあり、その好例といえます。同時に、無機質な壁の一部、窓から漏れる光が暖かみを演出します。
突き出た2階部分は濡れずに道路・車へアクセスするための庇を兼ねており、デザインと一緒に機能性も考えられた玄関ポーチです。
5-3. 建築・庭の植栽と調和した玄関ポーチ
玄関ポーチは庭と一体化することで広がりを持つことがあり、本事例はその好例です。
床に用いられた石材が植栽の緑の中に埋まり、自然な雰囲気を演出しています。
建築でつくられたポーチの屋根も、木材感がちょうどよく主張しており、建築・ポーチ・庭でひとつの庭園を見ているようです。
単体で考えずに、庭とも一体で設計されたことで生まれたデザインの玄関ポーチといえます。
建築家の設計するポーチはオリジナルの雰囲気・機能を持っています。
それは建て主の要望・想いをくみとって形にするためです。細かくヒアリングを重ねて、建て主にとって最良の玄関ポーチを提案するため、個性的なポーチが完成するのです。
こだわりをもって家を建てたい方は、建築家へ依頼すると理想の玄関ポーチが完成するでしょう。
6. まとめ
玄関ポーチはただの入り口ではありません。
お客様を迎え入れるための「顔」であり、毎日の生活をサポートする「縁の下の力持ち」でもあります。
家づくりにこだわるなら、玄関ポーチにもこだわりましょう。
記事の中で出てきた写真や、事例紹介の玄関ポーチのように、こだわりのポーチを作るなら建築家に相談することもひとつの考えです。
建築家は想像していたよりも気軽に相談できます。本記事に気に入った写真があったなら、タイテルの建築家紹介 をご活用ください。タイテルの一級建築士・建築アドバイザーが無料であなたにぴったりの建築家をご紹介します。
タイテルでは一級建築士の資格を持つ建築アドバイザーとの無料相談 も行っていますので、個別のご相談などがある際はぜひお気軽にご利用ください。