東京国立近代美術館で開催された「No Museum, No Life?―これからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会」の会場構成。
この展覧会は、「美術館」そのものをテーマとし、その構造や機能から抽出したAからZまでの36個のキーワードに基づいて構成されている。美術館の活動に関わる資料も織り込みながら、日本にある五つの国立美術館から集められた、紀元前から現代、西洋から東洋までの幅広い時代と地域の作品約170点をキーワードに沿ってアルファベット順に並べるために、「事典」になぞらえた空間構成の設計が学芸員側から求められた。
作品の多くが壁面展示であることや、キーワードごとに空間を仕切るため、壁の配置計画が重要なポイントとなった。隣り合う空間との仕切りとなる壁の小口は45度に傾斜させ、その面に事典の見出しのようなアルファベットのグラフィックを配する。見出しに従って、ページをめくるような感覚で展示空間を体験できないかと考えた。壁に囲まれた圧迫感を避けるため、壁面には所々開口も設けている。その向こうに見える風景は、時に鑑賞者にとって、手前の部屋と奥の部屋の作品群の関係性を示唆するように感じることができるようにとの、学芸員の考えから、開けることにした。また、メインの展示室では、6本の既存柱の周りに卍型に壁を配置することで、柱型が現れないことにも配慮した。
この展覧会では、作品と並行して展覧会自体の企画や設営の方法が紹介されており、絵画を収蔵庫の原寸大の写真の上に展示したり、最後のキーワードである”zero”の空間をそのまま作品のクレート置き場としたりするなど、普段見ることのできない、美術館の裏方を垣間見ることが出来る。「これからの美術館事典」というテーマにあわせ、会場設計においても壁の小口や断面をラワン素地のまま見せることとし、未完のような状態の空間を残している。事典の中で偶然の発見があるように、気付きの生まれるような展示空間を目指した。
主要用途: 展示会場構成
施工: 東京スタデオ
クレジット: 主催:東京国立近代美術館/グラフィック:neucitora
所在・会場: 東京国立近代美術館
延床面積: 1118m2
設計期間: 2015.01-2015.05
施工期間: 2015.06
会期: 2015.6.16-2015.9.13
写真: 阿野太一
ウェブサイト: http://www.momat.go.jp/am/exhibition/no-museum-no-life/