「隅」 空間を広く感じさせる試み
「広さ」を感じさせる要素は2つ挙げられる。空港のように端から端まで見えないほど距離があると「大きな部屋」と感じ、江戸城大奥のようにどこまでも部屋が連なると「部屋数が多い」と感じ、何れも「広い」と認識される。実際に広ければこの二つの共存は難しいことではないが、面積の限られた敷地では、前者は敷地の端から端まで少しでも長い距離を見通せるようにつくり、後者は今いる部屋と隣接する部屋とのつなぎ方でその先にも部屋が連なることを予感させる。「開口」と「素材と色」を使って「光」のうつろいで錯覚を起こし、この二つの要素を共存させ広さを認識させる。
1.物理的に最大ボリュームを確保する
平面上は四隅、断面上は南側前面道路に面する1階をガレージとして削りとり、天空率を使って高さ方向にも最大ボリュームを確保した。この外形が「大きな部屋」と「部屋数が多い」を共存させるための下地となっている。滞在時間の長いリビングを建物の2階の中心に、東にダイニング、北にキッチン、南に子ども部屋、西にTVを置くスペースを配し、上階は吹抜けを介してゲストルーム、下階はエントランスへつながる空間構成となっている。
2.あいまいな「開口」と「素材・色」を変える
3.「大きさ」と「部屋数」を感じさせる光の錯覚
光によってリビングの「素材」が強く表れると「部屋数が多い」と感じる一方、外周の壁の「色」が強く表れると「大きな部屋」を感じる。「大きな部屋」と「部屋数が多い」の共存は狭小住宅では難しいが、光による錯覚でその両者をその時々でゆらゆらとうつろうことで共存を可能としている。一日の太陽の動きだけでなく天候や季節によっても内部に差し込む光は変化し、夜は照明のパターンや強さによって空間の感じ方が変わる。
▲昼:曇り空のやわらかい光の下では、仕上の境目ははっきりしていない。晴れた強い光のもとでは、境目がはっきりと表れる。
▲夜:外周部の壁面を線状に照らすモードや、エリアごとにダウンライトで光を落とすモードなど、いろいろなシーンが用意されている。