庭と家を同時に設計し、
庭の役割を拡張することで拓いた、都市住宅の可能性
敷地は、東京国立市の閑静な住宅街。この周辺でも、相続時に土地を細分化して建売りにするミニ開発や、賃貸住宅の建設などが増化しており、暮らしや風景は窮屈になる一方である。そこで、元の住居は改修をして賃貸運用し、隣接する土地を細分化せずに新居を計画した。そして、住宅の必要面積に対して土地を細分化せず、敷地の1/3が建物で、2/3を庭とした。
多方向に庭があり、空が見える。それは、雲や、太陽、月の動きを感じさせ、時間の流れを身体に刻み込む。体内のリズムを庭と共に調整することができるのだ。そして、この緩やかな時の流れ、大きな自然に身を任せることで、自己との対話も可能となってくるのではないだろか。
また、植物への水やりを自動潅水とはせず住民の手にゆだねたところも大きい。毎日手入れすることで色々な発見がある。季節ごとにいたるところから花が咲き、水盤には水浴びしに鳥が訪れる。そうした、少しずつの住まいへの関りが、建物への愛着を熟成させてくれる。
常に庭と生活するレベルが同じであるように平屋とした。敷地全体に部屋と庭を市松状に配置し、外皮表面積を大きくすることで、すべての部屋が庭をもつ明るく開放的な環境をつくる。そうして、敷地内にも隣接する住宅にも陽が当たらない、風が通らないといった裏の場所をなくした。庭は将来それぞれの部屋を増築する際の敷地となる。間取り変更や同居世帯数の変化、一部賃貸利用の際に生じる戸境壁、増床のための増築など、持続的に手を加えることができるようにした。
平屋としたのにはもうひとつ理由がある。もともとこの土地には樹木があり、地面は芝生で覆われた、公園のような環境であった。そのため、周辺の住民に対して、借景や風通しといった恩恵を与えていた。そこで我々は、公園としての環境を継承することを目指した。建物高さはできるだけ抑えた平屋建てとし、庭を敷地全体に点在させることで、敷地全体が緑に覆われた公園のようになった。屋根を越える高さをもつ木々の重なりの下に、控えめな建築が建つ。道路からこの建物を見ると、以前の公園であった記憶が継承されていることがわかる。
庭は家族の距離感にも影響を与える。この住宅の家族構成は、祖母、両親、子供3人。お互いの気配を感じながらも、それぞれがひとりの時間をもてる場所がほしいという要望であった。そこで、家族全員が集まれる大きなリビングや庭よりも、適度な距離を保つ小さな部屋と庭を多くした。
建物の中央には、南北を貫通する長い一本の回廊がある。回廊2の突き当たりの窓から通りまで見通せる。部屋や庭を行き来する家族の向こうに、道路を行き交う人々が重なる。
また、庭に面したそれぞれの窓には、ベンチや勉強机を設え、窓辺で過ごせるようにした。異なる部屋の窓と窓が重なる瞬間、家族や庭、大きな環境と多くの気配を感じられる。
回廊の南端に水盤を配置し、南からの季節風を取り込み、水盤によって涼しげな風を室内へと届けてくれる。
庭は季節ごと、年を重ねるごとに変化し、庭と一体化した室内空間も、一緒に変わっていく。これは、庭と暮らし、さらに街の風景が共に成長する住まいなのである。
場所: 東京都国立市
用途: 住居
建築設計: IKAWAYA 建築設計
構造設計: 佐藤淳構造設計
設備設計: ZO設計室
庭園設計: 長濱香代子庭園設計
施工: 宮島工務店
敷地面積: 663㎡
延床面積: 228㎡
竣工: 2017年9月
撮影: 太田拓実/川辺明伸