PLANNING POINT
- 道路と隣地とのいい関係
- 庭の活かし方、使い方
- 住まい手が把握しやすい家
TAIMATSU STORY
- 隣の庭を借景にしたリビング、道路と一体化させたパーキング…
- 3つに分けた庭 リビングヤード、ストックヤード、グリーンヤード
- 設計プロセスへの積極的参加、家がまるごと一室空間
「あした、土地を決めたい」
翌日に控えた登山の荷造りをしている晩のこと、 いつも山登りを共にしている友人からの電話が鳴った。 「明日の劔岳、土地探しになってもいい?」
子どもの保育園を機に実家の近くに住みたく、そのためには春までに引っ越したい。 土地を探して、家を建てたいのだが間に合うだろうか。 すでに夏の終わり、時間はなさそうだが進めてみようと二つ返事で引き受けたのが初めての自分の仕事だった。 翌早朝、楽しみにしていた劔岳への気持ちもザックに背負いつつ、友人が目星をつけていた土地を回り、 なかでも相性の良さそうな土地にすぐ決められ、そのまま山へと向かった。 「子どもが走り回れる家がいいな」 山へ向かう車中も、険しい登山の道中も、お互いのはじめての家づくりへの想いを伝え合うことで 疲れも感じられないほどに興奮していたように思う。小屋に着いた後も、北アルプスの月夜の中、静寂と山々に囲まれながら、 どこまでも楽しい家づくりへの想像が続く。 かくして、親友との家づくりは始まったのでした。
育休は家づくりの好機?
設計のプロセスとして特徴的なことが二つ。
ひとつは完成までの時間に余裕はなかったこと。
当時まだ設計事務所に勤めていたこともあり、 学生時代を共にした設計者ふたりに声をかけ共同設計で進めるとこととなった。
そして、もうひとつは施主である友人が育休中であったために、積極的に設計のプロセスに参加したことである。
設計者たちにとっても最初の住宅設計、鼻息荒くも意気込んで設計議論を重ねていたが、 時に施主も自主的にSkypeで参加し、明け方まで打合せをしていた日々を思い出す。 住み始めた後も自ら手が入れられるような家にしたいという考えの施主からすると、 設計の過程や家の素材や作り方を細かに把握できたことは、とても楽しんでいたようだった。 自分の家をもつという限られた機会に、家を買うのではなく、建てるという選択は 対価を払って物を買うことに慣れている現代人にとってはなかなか勇気のいることかもしれない。 ただ、友人でもあるご主人の家づくりへの向き合い方を見ながら、その過程を経て建てられた家への思いは、 家を買っただけのそれとは歴然とした相違があると感じた。 住まいへの思いや、家族の構成、予算はそれぞれ違う。 しかし、家づくりというプロセスに向き合うこと、そして費やす時間は間違いなく完成した住まいにも、 住み始めた後の住まい方にもよい形となって現れてくると思う。 「生活が前向きになった」 完成から1年ほど経った後、何気ない会話の中での友人の言葉にたまらない喜びを感じた。
【建築概要】
所在地:東京都府中市
用途:専用住宅
家族構成:夫婦+子供一人
構造/規模:木造在来工法・地上2階建
敷地面積:133.61㎡
建築面積:53.24㎡
延床面積:106.48㎡
竣工年月:2013.06
施工:桃山建設
写真:太田拓実
掲載:新建築住宅特集2015年5月号 ・ 日本経済新聞2015年9月9日
建築工事費:2000万円代
設計協力:溝部礼士建築設計事務所・畠中建築設計スタジオ