2018 / Restaurant & House / Tokyo
まちを動かす小さな生態系としての建築
暮らしの気配が漂う狭い路地、分刻みで電車が行き交う鉄道高架、2020年に向けて建設中の幅の広い都市計画道路。敷地は異なる3つの環境に挟まれた特異な場所に位置している。その異なるスケールや距離感、速度、音、明るさといったものに反応しながら、環境と共に立ち上がる建築を考えた。
4層で構成される建物は、1階が店舗、2~4階が個人の住宅となっている。1階には和食店が入り、2年間路地に入口を設け、その後計画道路が開通した際はそちら側がもうひとつの顔となって町へ大きく開かれる。また住宅部分は容積最大まで床をつくりつつもヴォリュームを大きく取ることで、テラスや吹抜けが一体となった外との繋がりの強い構成とした。
こうして積層された4枚のスラブに対し、内外を練り上げて(ステアして)いくように、階段を敷地全体に大きく回していく。路地を歩いていくとその延長として階段が浮かび上がり、高架をかすめるように建築に潜り込み、さらに内部をぐるりぐるりと回って建物上へと抜けていく。動きをもったこの階段は、空間を圧縮したり緩めたりしながら周囲の環境と呼応した場を生み出していく。人の動きを纏い、人の気配を定着させるそれは、暮らしの中心にありつつも、どこか人から離れた都市の骨格のようなスケールをもっている。それが場の発見を促し、ここに住まう豊かさに繋がるのではないかと考えた。
また路地には階段のかたちを介して住人の気配が漂い広がっている。それは民家が軒を出したり縁側を回したり鉢植えを並べたりすることに通ずる、都市における界隈への参加の一つの顕れとなるだろう。さらに建物を押し広げるように上っていく階段がつくり出すテラスは、暗い袋小路に光と風を流し込み、住宅としての新たな構えもつくり出している。
こうして環境に呼応して立ち上がる建築がゆっくりとまちを動かし始め、ここにこの土地固有の繋がりと、豊かな開放感が生み出されることを期待している。