東急東横線・新丸子駅東口。東口駅前商店街の一角に、先代から引継いだ中華料理店があります。建物の老朽化に伴い、常連客でもある我々が建て替えのチャンスをいただきました。
敷地は素直な長方形、内部空間をすこしでも広く確保するため、外壁を隣地境界いっぱいに建て、可能なかぎり外壁を薄くすることを目指しました。
建築本体は、2m巾を基準に分割、ユニット化 (壁パネル16ピース、床パネル15ピース)して、敷地奥より門型に組立てながら、前面道路に向かってトンネル状に連続させました。隣地境界と外壁の最小離隔距離は、70mmです。建物を隣地境界いっぱいに計画するあたって外壁のメンテナンスを考慮し、メンテナンスフリーのコールテン鋼を使っています。
スレンダーなH鋼のフレームの中に、間口いっぱいの吹抜けを計画しました。吹抜けは、1階エントランス周りで7.65m、2階レベルでは4.85mの連続した空間としています。吹抜けは、そのまま3階へとつながり、敷地奥の隣戸の外壁まで到達しています。
細くて頼り無い外観のフレームとは裏腹に、ダイナミックな空間を内包させ、薄い筒状の建物であることが、道路を歩く人からも良く見えます。
敷地の形状、施主の要望、素直に組立ててきたつもりでしたが、汎用性の高い、通常とはすこし違う建築が商店街の一角に出現しました。すこしだけ違うことの連続で辿り着いた建築は、きわめてシンプルで薄いフレームの連続で成立していますが、建築主体より都市のヴォイドの様にも見えます。
全国どこにでもありそうな何の変哲もない商店街の中で、街並をえぐり取ったような、あるいはポッカリと穴を明けたような在り方とすこしだけ違う構造形式 が、建築が箱としてではなく、その薄さゆえ、もはや建築自身の輪郭を消し去ろうとしています。
そして、中華を食するお客さんだけが商店街に浮かび上がってくるのです。
設計担当:納谷学、出原賢一
構造設計:かい構造設計 寺門規男
施工会社:栄港建設
構造形式:鉄骨造
敷地面積:99.18m²(29.95坪)
延床面積 : 163.82m²(49.56坪)
1階面積 : 85.98m²(26.00坪)
2階面積 : 68.39m²(20.68坪)
3階面積 : 9.45m²(2.86坪)
受賞歴 :
2001年度 グッドデザイン賞
2001年 ar+d賞 入賞
2002年 JCDデザイン賞入賞
2003年 日本建築士会連合会奨励賞
掲載誌 :
『次世代の空間デザイン 21名の仕事』
『建築MAP 横浜・鎌倉編』
『新建築01年6月号』
『日経アーキテクチャア 01年5月14日号』
『ディテール2002 夏季号』
『AERA DESIGN ニッポンのデザイナー100人』
敷地の間口いっぱいに計画された宝珍楼。商店街に大きな吹抜けが面し、隣のビルと比べると外壁の薄さが際立ちます。
1階エントランスの吹抜け。左隅に2階への螺旋階段を設置しました。
1階は、赤を基調にカジュアルなスタイルでランチ客が座りやすいインテリアとしています。
2階多人数用のテーブルを配置。椅子は旧店舗で使っていた椅子をシックにリメイクし、奥に上り座敷を用意しています。
3階から吹抜けを介して、商店街が見えます。3階は、吹抜けに増床できるように計画しています。
3階の階段前からダイナミックな吹抜けを介して、新丸子の商店街が見えます。
夜の新丸子東口商店街に浮かぶ宝珍楼。